大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)223号 判決

原告

浦川絹代

被告

高津辰男

ほか三名

主文

被告らは各自、原告に対し、金八一万七、七四四円およびこれに対する昭和五八年六月二九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは各自、原告に対し、金一五七万九、五九八円およびこれに対する昭和五八年六月二九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

仮執行免脱宣言

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和五八年六月二九日午後〇時五八分頃

2  場所 大阪市淀川区加島二丁目二番先路上

3  加害車 普通乗用自動車(泉五五え七八一一号。以下高津車という。)

右運転者 高津辰男(以下被告高津という。)

加害車 普通乗用自動車(泉五五え五五三〇号。以下近俊車という。)

右運転者 近俊彰彦(以下被告近俊という。)

4  被害者 高津車に乗客として乗車中の原告

5  態様 出合頭衝突

二  責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

被告大丸タクシー株式会社は、高津車を、株式会社岸交は、近俊車をそれぞれ業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。

2  一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告高津及び被告近俊は、それぞれ高津車、近俊車の運転手として、いずれも前側方不注意の過失により本件事故を発生させた。

三  損害

1  受傷、治療経過

(一) 受傷

腰部挫傷、頸部損傷、左胸部打撲等

(二) 治療経過

通院(桂寿病院)

昭和五八年六月二九日から昭和五九年一月三一日まで

2  治療費 七一万八、〇八〇円

3  休業損害

原告は事故当時三四歳で、洋品店を経営し、一か月平均五五万九、八五二円の収入(昭和五八年一月から同年六月までの売上合計九五九万七、四七三円に利益率三五%を乗じて算出した一か月平均)を得ていたが、本件事故により、昭和五八年七月から同年一二月まで減収及び人件費の支出を余儀なくされ、その間アルバイトを使用したことによる賃料及び収入減として合計一六二万二、九五三円の損害を蒙つた。

4  慰藉料 七〇万円

5  弁護士費用 二〇万円

四  損害の填補

原告は自賠責保険金傷害分として一六六万一、四三五円の支払を受けた。

五  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。)を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁

一の事実は認める。

二の事実は認める。

三の事実中、1及び2の事実は認め、その余は不知。

四は認める。

第四被告らの主張

損害の填補

本件事故による損害については、原告が自認している分以外に、後遺障害補償として自賠責後遺障害保険金一五〇万円の填補がなされている。右填補分は原告の傷害慰藉料を考慮する際に斟酌されるべきである。

第五被告らの主張に対する原告の答弁

被告ら主張事実は認めるが、填補された一五〇万円は原告請求外の後遺障害補償として自賠責保険会社から受領したものである。

第六証拠

記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。

理由

第一事故の発生

請求原因一の事実は、当事者間に争いがない。

第二責任原因

一  運行供用者責任

請求原因二の1の事実は、当事者間に争いがない。従つて、被告大丸タクシー株式会社、同株式会社岸交は自賠法三条により、それぞれ本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

二  一般不法行為責任

請求原因二の2の事実は、当事者間に争いがない。従つて、被告高津、同近俊は民法七〇九条により、それぞれ本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

第三損害

1  受傷、治療経過

請求原因三の1は、いずれも当事者間に争いがない。

2  治療費

原告は、本件事故による受傷のため、治療費として合計七一万八、〇八〇円を要したことは、当事者間に争いがない。

3  休業損害

成立に争いのない甲第五、第六号証、第八号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七号証の一ないし六、原告本人尋問の結果によれば、原告は、事故当時、大阪市淀川区加島二丁目七番二六号において竹内洋品店を経営していたこと、原告は、本件事故による傷害のため、昭和五八年七月は竹内久子を雇用して同店の営業を続けたが、同年八月は休業したこと、しかしながら、同年九月、同年一〇月は浦川愛子を雇用して再び同店の営業を始め、同年一一月は浦川愛子、藤田明美を雇用し、同年一二月は藤田明美を雇用して同店の営業を続けたこと、竹内洋品店における昭和五七年度と昭和五八年度の月別売上高を比較すると、七月度で八二万九、四八〇円、八月度で一七九万八、七六五円、九月度で七一万三、一八〇円の減収となつていること、ところで、竹内洋品店では、原則として、原告一人が同店を切回し、同店が忙がしい期間のみアルバイトを雇い入れており、同店の不動産も原告及びその実母の所有となつているため、通常の衣料洋品小売店の所得率一九・二%に比して収益率は高いこと(なお、原告本人尋問の結果によれば、竹内洋品店においては年に数回のバーゲンセールを実施しているというのであるから、各月別の収益率はそれぞれ異なつてくるものと考えられるのに、甲第五、第六号証における収益率三五%が一定しているのは不自然であつて、甲第五、第六号証のうち受入金額欄記載の金員は信用することができない。)、また、昭和五八年七月から同年一二月までの間、給料として、竹内久子に対し五万二、五〇〇円、浦川愛子に対し合計一六万一、〇〇〇円、藤田明美に対し合計一五万九、五〇〇円がそれぞれ支払われたこと(以上合計三七万三、〇〇〇円)が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。右事実によれば、竹内洋品店における所得率は、通常の衣料洋品店の所得率より高収益であつたことは認められるものの、原告主張の如く、竹内洋品店の所得率を三五%と認めることはできない。ところで、竹内洋品店では不動産に課せられる税金は経費となるものの、賃料は経費として必要でないこと、また、竹内洋品店は、原則として、原告一人で切回されているため人件費も忙しい時期を除き不要であること、一方、店員をアルバイトとして一人雇用した場合の人件費は、昭和五八年度五か月間で三七万三、〇〇〇円であつたことの認められる本件では、通常の衣料洋品店の所得率を基礎に、店舗不動産に課せられる税金を控除した賃料及びアルバイト一人の人件費を考慮した原告に控え目の所得率二八%とするのが相当であると認める。

そうすると、原告の経営する竹内洋品店の昭和五八年七月から九月までの三か月間の所得減収は金九三万五、五九九円となり、かつ、原告が本件事故により負傷しなければ忙しい時期を除いて支出することもなかつたのに、本件事故のため支出を余儀なくされた昭和五八年七月から同年一二月までの人件費合計三七万三、〇〇〇円のうち、昭和五七年度においても売上金額が多く、竹内洋品店にとつて忙しい時期と考えられる一二月分を除いた二五万五、五〇〇円の総合計一一九万一、〇九九円につき、逸失利益として被告らに請求しうることとなる。

4  慰藉料

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、その他原告は既に後遺障害等級一四級一〇号補償として合計金一五〇万円を受領していること等諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は五〇万円とするのが相当であると認められる。

第四損害の填補

請求原因四の事実は、当事者間に争いがない。

よつて原告の前記損害額合計二四〇万九、一七九円から右填補分一六六万一、四三五円を差引くと、残損害額は七四万七、七四四円となる。

第五弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は七万円とするのが相当であると認められる。

第六結論

よつて被告らは各自、原告に対し、八一万七、七四四円、およびこれに対する本件不法行為の日である昭和五八年六月二九日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条(なお、仮執行免脱宣言は相当でないから、却下する。)を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂井良和)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例